音楽家の素顔(ポートレイト)

音楽ライター室田尚子と写真家伊藤竜太が、毎回1組の日本人クラシック・アーティストにインタビュー。写真と文章で、その素顔に迫ります。

第7回 白馬に乗ってやってきた、とびきり美しいオペラ歌手 鳥木弥生(メゾソプラノ)

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 去る6月に豊洲シビックセンターホールで行われた「6人のメゾソプラノたち」と題するコンサートは、メゾソプラノの歌う役柄の多彩さ、幅広さに加えて、メゾソプラノという声種を持つ歌い手たちがいかに演技派ぞろいで、人を楽しませることに長けているのかを存分に教えてくれる企画だった。その中でも、とりわけ陽性の魅力を放っていたのが、鳥木弥生さんである。藤原歌劇団の舞台で知る人も多い鳥木さんだが、そのキャリアのスタートはヨーロッパであり、比較的長く彼の地を活動の拠点としていたこともあって、「日本の歌い手」という枠をはみ出している印象も強い。「実力派」「華やかな美貌」など、様々な形容詞がつく鳥木さんの素顔はいかに。

 

勉強嫌いの本好き少女

 

 「私は石川県の七尾市出身で、姉が2人います。この姉たちがものすごく勉強ができる人たちで、それに対して私は勉強が大嫌い。というか、正確には “先生”という人種が嫌いだったんです。例えば何かしなさいと言われても“やる理由がわからないのでやりません!”って言って、それでいつも悪い成績をつけられていました。ひとりひとり違うのに何でみんなで同じことをしなくちゃいけないんだって反発していました」

 すでにして、この少女時代である。画一的な押し付け教育に反発する鳥木さんだが、しかし一方で大の本好きでもあった。かたわらにはいつも本があった、という少女時代に抱いた夢は…

 「魔女です」

 おお!さすが(笑)考えてみればオペラ歌手も「魔女」みたいなものかも、というのはおいておくとして、魔女に関する本を読み漁りながら、他の女の子と明らかに違うところは他にもあった。

 「女の子ってよく“白馬に乗った王子様に迎えに来てほしい”とか言うじゃないですか。私は“白馬に乗って剣を携えた王子様になりたい”って思ってました。だから、竹を削って剣を作って、親には“馬を買ってくれ”とねだったりしていました」

 実はこの、「女の子ってこうだよね」という世間の「押し付け」に疑問を持つ姿勢は今でも変わっていない。もう少しきちんとした言い方をするなら、「既存のジェンダー規範」に対する懐疑。それが魔女や王子になりたかった少女・鳥木弥生をオペラ歌手の道へと導いていくことになる。

 

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恩師、エレナ・オブラスツォワのひとこと

 

 「勉強をしたくなくて」石川県で唯一音楽専攻があった県立高校の声楽専攻へと進んだ鳥木さん。その後は、やはり「受験勉強をしたくなくて」武蔵野音楽大学声楽科へと進学。転機はそこで訪れた。武蔵野音大で教えていた往年の名メゾソプラノ、エレナ・オブラスツォワに見出されるのだ。

 「江古田の街を歩いていたらスカウトされたんです(笑)それで歌を聞いてもらって、“あなたは私になる。私のすべてを教える”と言われました。何でしょうね…私は、歌が上手いからじゃなくて性格がいいから気に入られたんだって言ってるんですけれど(笑)」

 もちろん、鳥木さんの歌が下手だったわけはないのだが、オブラスツォワが彼女のキャラクター、というか人間力のようなものを見抜いたことは間違いない。彼女は武蔵野音大を卒業した鳥木さんを、ユーゴ(現セルビア)やロシアなど、東欧各国のツアーに連れ出していく。当時の東欧といえば共産主義は崩壊したとはいっても、まだまだ経済的にも体制的にも厳しい時代。若い日本人女性がホイホイと行っても、生活していけるかどうかすら危うい面もあった。事実、その後オブラスツォワがスカウトした日本人学生は、ほとんどついていくのを辞退していたのだという。鳥木さんも、生活面ではずいぶん苦労したようだが、それでも必死で食らいついてツアーを周り、各地で歌った。だから、「歌手・鳥木弥生」のデビューはセルビアやロシア、ということになる。

 日本を出て行くというとき、オブラスツォワは鳥木さんの両親の元を訪れ、「この子は絶対に世界に出るから」と説得したのだという。

 「その時オブラスツォワは、“全部で世界一になることはできないけれど、何かの役では世界一上手に歌えるようになる”と言ったんです。彼女の予想では、それは『イル・トロヴァトーレ』でした。それと『ウェルテル』のシャルロット」

 シャルロットは、その後フィレンツェで師事したフェドーラ・バルビエリも太鼓判を押した役だ。「あなたはどこかの瞬間で、世界一美しい『トロヴァトーレ』と『ウェルテル』を歌えるはず」というオブラスツォワのひとことが、鳥木さんを、「オペラ歌手」として生きるステージへと押し上げた。

 

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オペラ歌手が天職だと思えた理由

 

 フィレンツェに足かけ7年、その後文化庁在外派遣研修でパリに2年。その間、ヨーロッパ各地でオペラの舞台やコンサートに出演し、華々しい活躍を重ねた鳥木さん。生涯のパートナーと出会って子供を授かったために、2009年に臨月で(!)帰国するが、その後は押しも押されもせぬ第一線の歌手として第活躍を続けている。そんな鳥木さんに、「オペラ歌手でやっていこう、と決意したのはいつか」とたずねたら、こんな答えが返ってきた。

 「小さい頃から男尊女卑の思想が許せませんでした。女性だけが“女流作家”“女流◯◯”と言われる。どうしてだ、って憤ってきた。ところがふと、そういえばオペラ歌手のことは“女流歌手”とは言わないな、と気づいたんです。オペラには、すでに作品の中に“女声”で歌うべき役柄が存在している。私はその役柄を“女性として”歌えばいい。オペラ歌手は、女性として、女性にしかできないことを自然にできるんだ…そう気づいた時、これは私の天職かもしれないと思いました」

 魔女に憧れ、王子様になろうとした少女は、「女だから」と役割を外から押し付けられる社会に疑問を抱き続けた。一方で、決して「女であること」を否定もしなかった。そうしてたどり着いたのが、「女である自分がもっとも自然に生きることのできる」オペラ歌手という舞台だったのだ。

 

メゾソプラノ「地位向上」の秘策?!

 

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 以前にもどこかで書いたが、私自身はメゾソプラノバリトンヴィオラといった、中低音域の音色の方が、極端に高い音や低い音よりも好きだ。だが世間ではどうしても「主役はソプラノ」という感覚が染み付いている。まさに「ソプラノ1番、テノール2番」(メゾソプラノ地位向上委員会の主題歌の歌詞より)なのだ。だが、鳥木さんがいう「メゾソプラノの地位向上」とは、「ソプラノよりメゾの方が偉い」というような単純なことではない。

 「メゾはソプラノよりずっと役のバリエーションが広い。小間使い、おばあちゃん、ちょっとクセのある人…プリマ以外何でも演る。ただ、だからこそ、メゾはキャラクター勝負みたいに考えられているのも事実で、私は、メゾも非常に高い技術を持っているんだということをみせていきたいと考えているんです。本当は叙情的な曲から激しい曲まで色々あるし、それらを歌い分ける技術も持っている。そういうメゾの歌をみせる場を増やしていきたい、というのが『メゾソプラノ地位向上委員会』の使命だと考えています。」

 確かに、先の豊洲のコンサートでは、本当に様々なメゾソプラノの役柄が聴けたし、また6人の歌い手たちも実に個性豊か。決して「メゾ」と一口にくくれないほどの多彩さだった。どうしてもメゾというと「カルメン」一辺倒になりがちだが、実は多彩なメゾの世界を垣間見ることのできる場が増えれば、メゾソプラノの「地位」は「向上」するにちがいない。

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 「それに、ソプラノが歌っている役の中には、実はメゾが歌えるものがいっぱいあるんです。ミカエラ(『カルメン』)やムゼッタ(『ラ・ボエーム』)なんか、これからちょっとずつ奪っていこうかと…(笑)」

 真に技術のあるメゾソプラノ歌手をもってすれば、音域さえ合えばこうした役を歌うことはそれほど難しくないのかもしれない。「えー、でもミカエラは清純な乙女でしょ?メゾだとちょっと強すぎない?」と思ったあなた。それは、これまで私たちはそういうミカエラしかみてこなかったというだけだ。もっとも重要なのは、「その人の声の質にキャラクターがあっているかどうか」ということである(ソプラノ歌手でも、ただ高い音が出るからというだけの理由で声質にまったく合っていない役を歌って声を壊してしまうケースがある)。

 「かつてジェシー・ノーマンはこう言いました、“声種というのは想像力の欠如です”。みんなが持っている、“このキャラクターはこういうもの”という固定したイメージをどんどん壊していけたら最高です」

 古臭い規範に敢然と反旗をひるがえす「白馬に乗ったメゾソプラノ」の姿が、あなたにも見えるだろうか。

 

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鳥木弥生(とりき やよい) Yayoi Toriki

ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。
第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G.ノセダ指揮同劇場管弦楽団と共演。
日本では岩城宏之指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢の新人登竜門コンサートを経て同オーケストラ定期公演、東京公演においてファリャ「恋は魔術師」でデビュー。
フィレンツェ市立歌劇場オペラスタジオ、及びF.バルビエーリ、W.マッテウッツィの元で研鑽を積み、ヨーロッパでもブッセート「ヴェルディの声」など、数々の国際コンクールに入選、入賞。
02年フィレンツェ市立歌劇場公演「ジャンニ・スキッキ」(R.パネライ主演)ツィータでオペラデビューの後、ルッカ、ピストイアでのプッチーニ「外套」フルーゴラ、クレルモン=フェランでのビゼー「ジャミレ」主演、バルセロナ他でのプッチーニ蝶々夫人」スズキなど、各地でオペラ公演やコンサートに多数出演し現地メディアでも好評を得る。
07年度文化庁派遣でパリへ。エコールノルマル音楽院オペラ芸術科のディプロマを最高位で取得。また、名指導者として知られるコレペティトゥール、J.レイスよりフランスオペラを中心としたレパートリーを教授される。
レオンカヴァッロ「ラ・ボエーム」ムゼッタ、ビゼーカルメン」題名役、プーランクカルメル会修道女の対話」マリー、ヴェルディイル・トロヴァトーレ」アズチェーナ、ベッリーニ「カプレーティ家とモンテッキ家」ロメオなどのオペラに加え、ベートーヴェン「第九」「荘厳ミサ」、 ストラヴィンスキー「プルチネッラ」、フォーレペレアスとメリザンド」、ヴェルディ「レクイエム」などオラトリオやコンサートのレパートリーでも、数々の著名な指揮者、オーケストラとの共演で活躍している。
笈田ヨシ演出「蝶々夫人」「アルベルト・ゼッダスペシャルコンサート」など、出演舞台の放映も多数。
2015年「岩城宏之音楽賞」受賞。
http://yayoitoriki-mezzosoprano.hatenadiary.jp

 

【鳥木弥生さん 出演情報】

 

◇「まだ何も決まってないコンサート」

日時:2018年11月10日(土)14:00開演

会場:国分寺市いずみホール

 

◇「銀座オペラ・ガラコンサート」

日時:2018年11月16日(金)19:00開演

会場:ヤマハホール

 

◇G.ヴェルディ『ファルスタッフ』

日時:2018年12月6日(木)・9日(日)・12日(水)・15日(土)

会場:新国立劇場

第6回 天才ピアニストは愛の夢を見たか 反田恭平(ピアノ)

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  圧倒的なテクニック、惜しみなく溢れだす熱、そして煌めき変化する音色。この23歳のピアニストが、なぜ、人々を惹きつけてやまないのかは彼のピアノを聴けばわかる。だが、かつていた、そして今現在も居並ぶ数多の天才ピアニストたちと反田恭平との間には、何か「違い」がある気がしてならない。それは何なのか。「新しい時代の寵児」といって片づけてしまえない、何かしら音楽家にとって本質的な部分に関わるもの。それを知りたくて、2度目の全国ツアー直前の反田恭平さんにインタビューを申し込んだ。

 

 天才少年が音楽に目覚めたとき

 「今年のワールドカップに出たかったんですよね。」

 1994年生まれのサッカー少年は、23歳の夏のワールドカップに出場する夢をみていた。だがその夢は、11歳、試合中に怪我をした時についえる。手首の骨が折れる音、その後の信じられないほどの痛みに「この仕事は無理だ」と思った。そして「痛くない仕事」を考えた結果、4歳の頃から「遊びで」弾いていたピアノを選ぶ。

 「その時までピアノは趣味でした。ただ音が出るのが面白かっただけで、コンクールに出ても『奨励賞』止まり。何人か審査員の先生に声をかけていただいたこともあるんですが、何しろその頃は音楽の世界のことも知らなかったので、母も自分もサッカーがあるからと断ったりしていました。」

 プロの審査員が声をかけたのは、少なくともただの「ピアノのうまい子」以上のものを見出したからに違いない。実際、サッカーに没頭しながらも「小4か小5の時には『幻想即興曲』を、小5ではショパンエチュードを弾いていました」というのだから、やっぱり「天才少年」ではあったのだ。しかしそのままでは、これまで綺羅星のごとく現れては消えていった「凡庸な天才少年」で終わっていたのかもしれない。

 

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  サッカー選手という夢を諦め、ピアノに「転向」した11歳の反田少年は、ひとまず「家から一番近かった」桐朋学園大学附属子供のための音楽教室に通い始める。そこで、1枚のチラシが目に飛び込んできた。

 「指揮者の曽我大介先生による夏の指揮者体験のワークショップのチラシだったんです。面白そうだな、と思って参加しました。最終日に受講生がオーケストラを指揮するという企画があって、モーツァルトアイネ・クライネ・ナハトムジーク』、ブラームスハンガリー狂詩曲』、チャイコフスキー白鳥の湖』の中から選べたので僕はチャイコフスキーを選んで、いざ本番で指揮棒を振り上げた瞬間に金管楽器がワッと鳴って、それで世界が変わりました。」

 誰にでも訪れる「世界が一変する」瞬間を体験した反田さん。指揮者になりたいと考えた彼は、曽我大介氏にどうしたらなれるか、とたずねる。ピアノを弾いていると聞いた曽我氏は「それなら、まずはピアノをある程度極めて、それから指揮者になったらどうかな」と答えた。

 「それで今に至ります。」

 

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「ピアニスト」とは名乗りたくない

 「だから、現在ピアニストとして活動できているのはありがたいですが、僕はここにとどまるつもりはないということはお伝えしておきたい。」

 はっきりと言い切った反田さんの顔を改めて見つめる。視線や声の響きに応じて変わる表情は、とてつもなく理知的な印象だ。音楽の森の中を夢を抱いて彷徨う若者、というよりも、地図と磁石を片手に緻密な計算を重ねながら進む冒険者、というような。

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  桐朋女子高等学校在学中の2010年に日本音楽コンクール優勝。その後ミハイル・ヴォスクレセンスキー氏の推薦により2013年ロシアに留学。2016年にはサントリーホールでデビュー・リサイタルを開催、チケットはソールドアウトし追加公演も含め3000人を超える動員を記録する。2017年には初の全国ツアー、全13公演はすべて完売。「題名のない音楽会」や「情熱大陸」でも取り上げられる、いま、もっとも旬のピアニスト。それが「反田恭平のプロフィール」なのだが。

 「ピアノを弾いているだけなのに、音楽を知っていますというような顔をしたくないんです。ピアノを弾いて、かつ室内楽も知り管弦楽もオペラも全部勉強して、その上でピアニストと呼ばれたい。それならばそう呼ばれることに価値があると思うんです。」

 11歳でショパンエチュードを弾いていた天才少年は、指揮者を目指して音楽の扉を開き、二十歳を超えて押しも押されもせぬ「ピアニスト」になった。だが、その瞳はどこかもっと遠くを見据えているようだ。彼が、最終的にたどり着くべき場所はいったいどこにあるのか。

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楽家であること、人として生きること

 「よく人は、人生にはそこここに選択肢があるといいますが、僕はそうは思わない。もちろん、何か問題にぶつかった時に気持ちが交錯して答えが出にくくなることはあると思う。でも、最後には必ず決断する。一つを選ぶ。最終的にどれか選ぶということが人生、という価値観です。例えば、もし明日事故にあってピアノが弾けなくなったとしたら、僕は、自分の人生はそういうものだと思うということです。」

 高校時代、作曲の先生が「その日最後に出した音に後悔がなければいい」と語ったそうだ。「悔いなく練習して悔いなく生きる、ということが、今でも指針になっているのかもしれない」という反田さん。だから向き合う。考える。そして決断する。選び取った人生は、幸せだろうか。

 「音楽家がいちばん幸せなのは、好きな人に、好きな曲を、好きなタイミングで弾く時だと思います。今はコンサート・ピアニストとして人の前で弾く仕事ですが、ずっと先では、僕の音楽を聴きたいと思うたったひとりの人のために弾く人生があればいいなと思っています。」

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  燕尾服を着てステージに上がり、スポットライトを浴びる。美しい音楽を奏でて大勢の人を虜にする。誰もができることではない。選ばれた、一握りの才能ある人にだけ与えられた特権である。その特権を十分に意識しながらも、反田さんが立っているのは、誰のものでもない自分だけの「人生」だ。彼のピアノからきこえてくる「音楽家にとって本質的な部分に関わるもの」とは、反田恭平という「人」が生きている「時間」の大切さ、なのかもしれない。だからこそ人は、彼のピアノを聴きたいと願う。その「時間」を共有することで、聴き手もまた、自分自身の人生の「時間」を感じることができるから。

 

 「僕は、一人でも聴きたいと思ってくれる人がいるならピアノを弾き続けますよ。それが僕の活動の源です。」

 

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反田恭平(そりた きょうへい) Kyohei Sorita

1994年生まれ。2012年 高校在学中に、第81回日本音楽コンクール第1位入賞。併せて聴衆賞を受賞。2013M.ヴォスクレセンスキー氏の推薦によりロシアへ留学。2014チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。

2015年イタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。年末には「ロシア国際音楽祭」にてコンチェルト及びリサイタルにてマリインスキー劇場デビューを果たす。

2016年のデビュー・リサイタルは、サントリーホール2000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。また8月の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行い、各日のコンサートの前半部分をライヴ録音し、その日のうちに持ち帰るというCD付プログラムも話題になる。3日間の追加公演も行い、新人ながら3,000人を超える動員を実現する。

20174月には佐渡裕指揮、東京シティフィル特別演奏会の全国12公演のソリストを務め全公演完売の中、各地でセンセーションを巻き起こす。6月にはNHK交響楽団との現代曲への挑戦し、初の全国リサイタル・ツアー13公演は全公演完売のうちに終了した。

デビューから2年、コンサートのみならず「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアでも多数取り上げられるなど、今、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。

現在、ショパン音楽大学(旧ワルシャワ音楽院)にてピオトル・パレチニに師事。また、桐朋学園大学院大学にて修士号取得の準備をしている。

 

【反田恭平さん 出演情報】

 

◆反田恭平ピアノ・リサイタル全国ツアー2018-19

7/21(土)14:00     仙台 仙台・電力ホール 完売!

主催:仙台放送/イープラス/日本コロムビア

 

7/22(日)14:00     福井 ハーモニーホールふくい 小ホール 完売!

主催:福井放送/イープラス/日本コロムビア

 

7/27(金)19:00     岩手 北上さくらホール 大ホール 

主催:岩手朝日テレビサンライズプロモーション東京

共催:一般財団法人北上市文化創造

 

7/28(土) 14:00     青森 リンクモア平安閣市民ホール 完売!

主催:リンクステーションホール青森/イープラス/日本コロムビア

 

7/29(日)14:00     筑波 つくばノバ 完売!

主催:(公財)つくば文化振興財団/イープラス/日本コロムビア

 

8/4(土) 15:00     長崎 アルカスSASEBO 中ホール 完売!

主催:アルカスSASEBO/イープラス/日本コロムビア

 

8/5 (日) 14:00     山口 秋吉台国際芸術村 完売!

主催:公益財団法人山口きらめき財団 秋吉台国際芸術村/イープラス/日本コロムビア

 

8/10(金)19:00     静岡 アクトシティ浜松 中ホール  完売!

主催:静岡朝日テレビサンライズプロモーション東京

後援:(公財)浜松市文化振興財団/中日新聞東海本社

 

8/11(土)15:00     秋田 秋田・アトリオン音楽ホール 完売!

主催:秋田朝日放送事業部/ープラス/日本コロムビア

 

8/18(土)14:00     山形   山形テルサ

主催:さくらんぼテレビ仙台放送/イープラス/日本コロムビア

 

8/19(日)14:00     長野 長野市芸術館 完売!

主催:テレビ信州/イープラス/日本コロムビア

 

8/25(土)14:00     島根 松江市総合文化センター プラバホール

主催:松江市総合文化センター プラバホール/イープラス/日本コロムビア

 

8/26(日)15:00     広島 三原市芸術文化センターポポロホール 完売!

主催:広島ホームテレビ/イープラス/日本コロムビア

 

8/30(木)19:00     高知 高知県立県民文化ホールグリーンホール 完売!

主催:高知県立県民文化ホール/RKC高知放送サンライズプロモーション東京

 

9/1(土) 熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)

主催:熊本朝日放送/イープラス/日本コロムビア

 

9/2(日)14:00     宮崎 宮崎県立劇場(メディキット県民文化センター) 完売!

主催:テレビ宮崎/イープラス/日本コロムビア

 

9/8(土)14:00     新潟  長岡市立劇場 大ホール

主催:(公財)長岡市芸術文化振興財団/N S T/サンライズプロモーション東京

 

9/9(日)13:00     東京 サントリーホール大ホール 完売!

主催:日本コロムビア/イープラス/サンライズプロモーション東京

 

9/15(土)18:30     沖縄 浦添市てだこホール

主催:浦添市てだこホール沖縄テレビ/イープラス/日本コロムビア

 

 

◇サマーミューザKAWASAKI2018 日本フィルハーモニー交響楽団 音の風景~北欧・ロシア巡り

日時:2018年8月9日(木)19:00開演   完売!

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

 

◇軽井沢大賀ホールCLASSICS 2018 反田恭平ピアノ・リサイタル

日時:2018年8月13日(月)17:00開演

会場:軽井沢大賀ホール

「偉大なるピアニストへの思い出~中村紘子メモリアル~」

曲目       ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 WoO.80

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」

ショパンノクターンOp.9より 第1番、第2番、第3番

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58

 

◇読響サマーフェスティバル2018《三大協奏曲》

日時:2018年8月21日(火)18:30開演

会場:東京芸術劇場

指揮=大井 剛史

ヴァイオリン=岡本 誠司

チェロ=ラウラ・ファン・デル・ヘイデン

ピアノ=反田 恭平

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23

 

◇イープラス presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2018

日時:2018年9月23日(日)

会場:横浜赤レンガ倉庫特設会場 ※雨天決行

 

 

 

 

 

 

第5回 アヴァンギャルドでオーセンティックな音楽家 鈴木優人(指揮・ピアノ・オルガン・作曲)

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クラシック界に吹く「新しい風」

 指揮者、ピアニスト、オルガニスト、作曲家。鈴木優人さんの「仕事」をひとつの言葉で表すことは不可能だ。八面六臂という言葉がふさわしい彼の活躍は、「日本の音楽界に新しい風が吹いている」ことを強く印象づける。1981年、オランダ、デン・ハーグ生まれ。父はバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)の音楽監督をつとめる鈴木雅明氏。麻布中学校・高等学校を経て東京藝術大学作曲科に進んだサラブレッド、なのだが、自身は「音楽が無関係な人生なるという想像はしていなかったが、かといって明確に“音楽家になる”と宣言していたわけでもない」という。

 「麻布時代は管弦楽部・音楽部・テニス部の3つのクラブをかけもちしていました。もっともテニス部はすぐに止めてしまいましたが(笑)。中学3年、15歳の時に初めて演奏会の企画をしたんです。自分でメンバーを集めてオケを組織して、府中の森グリーンホールを借りて。指揮は下野竜也さんにお願いしました。この頃、指揮の勉強も始めています。とにかく音楽が楽しくて仕方がなかった時期です。」

 藝大でも、バッハ・カンタータクラブに所属したり、実に「色々楽しく」やっていたという。在学中からBCJの鍵盤奏者として演奏活動を開始。卒業時には、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」と自作を組み合わせた「鈴木優人展」と題する演奏会で作曲家デビュー。その後オランダに留学して古楽チェンバロ演奏も学ぶ。

 

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“安定しないことで安定する”音楽家

  「専業化反対、ってよく言っているんですが(笑)、どれかひとつに決めたくないんです。世の中には、ジェネラルに色々な仕事をこなしている人がいますが、それはとても美しいと思う。逆に、大きな会社に入ると仕事がどんどん細分化されていって、隣の人が何をしているのかもわからなかったり。そういう状態は生きている感じが減ってくるという気がします。」

 色々なことを「やってやろう」ではなく、「やってみたい」という鈴木さん。そういう音楽家としてのあり方は、バロック時代の音楽家に通じるのだと語る。

 「専業の職業音楽家というのは、19世紀に入って産業革命後に生まれたものです。それ以前、バロック時代には色々な楽器を演奏する人がいっぱいいた。もちろん、プロとしてひとつのことに邁進する良さ、というのはあります。でも、ずっと同じことを続けていくと、それが最適かどうかを判断することをやめてしまう状態になってしまって、それは音楽家としてはすごく危ない。むしろ、自分の音楽がそれでいいのかどうか、常に問い続けていたい。“安定しないことで安定する”という状態を目指しています。」

 指揮者の鈴木優人、オルガニストの鈴木優人、作曲家の鈴木優人、色々な異なった「鈴木優人」がいる、ということか。とはいえ、そのすべてが一定以上の水準どころか素晴らしい成果を上げているのが鈴木優人という音楽家の稀有なところなのだが、その切り替えはどうなっているのか興味がある。

 「その都度OSをインストールし直す、という感じです。例えば指揮者と伴奏者では、人に対する接し方から根本的に変える必要があります。というか、要求されるものが違う。だから『鈴木優人』というハードはひとつですが、OSは全部違うんです。」

 

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「調布国際音楽祭」人が集まってつくり上げる喜び

  そんな鈴木優人さんがエグゼクティブ・プロデューサーを務める調布国際音楽祭が、今年も6月24日からスタートする。2013年、「調布から音楽を発信する」音楽祭としてスタート。年々規模を拡大し、2017年には「調布国際音楽祭」と名前を改めて新たなスタートを切った。テーマは「バッハの演奏」「アートとの連携」「次世代への継承」の三本柱。入場無料のオープニングセレモニーを皮切りに、7つのメイン公演、市民音楽家によるステージや桐朋学園大学の学生たちによるミュージックカフェなどの無料公演、またキッズコンサートもあり、たいへんバラエティに富んだ内容だ。

 「調布の街から音楽の楽しみが波のように広がっていってほしい、という気持ちでスタートしました。だから、この音楽祭は何よりも『調布らしさ』を大切にしています。例えば集客とかチケットの売り上げを優先すると、いつも同じようなプログラムが並ぶことになってしまう。そうではなくて、ここでしか聴けないものを優先して取り上げたい。今年でいえば、レイチェル・ポッジャーのヴァイオリン・リサイタルとか、深大寺で行われる寺神戸亮トリオなどがまさにそうしたプログラムです。」

 お話を伺いながら、鈴木さんの口からしばしば「たくさんの人と何かを作るのが好き」という言葉が発せられるのが印象的だった。調布音楽祭という「お祭り」が6年も続いているのも、彼のそんなキャラクターのなせるわざなのだろう。

 「そういう、“色々な才能がひとつになる瞬間”というのがとても好きなんですね。だから、指揮という仕事が大好きです。個々の目標を総体として作り上げる作業ですから。そのひとつになった瞬間っていうのは、ちょうどサーファーが大きな波をとらえた瞬間みたいなもので、その瞬間のために指揮者や音楽祭をやっているといってもいいかもしれません。」

 

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鈴木優人のアヴァンギャルド

  最初に述べたように、鈴木優人という人は、確実に日本のクラシック界に吹いている「新しい風」だと思うのだが、ご本人としては「人がやっていないことをやりたいとは思っていない」という。確かに、BCJしかり、昨年読響と行った三大交響曲の演奏会しかり、彼が繰り広げる音楽の内容そのものは決して奇をてらったものではなく、むしろ非常にオーセンティックでさえある。なのになぜ、鈴木優人という存在からは「人とは違う」「新しい」という印象を受けるのだろう。

 「実は僕、ダダイズムがとても好きなんです。クルト・シュヴィッタースの詩『アンア・ブルーメに』なんて、もうアンナって誰なんだって感じで大好き(笑)。でも、人間の精神ってダダ的なところがあるでしょう。例えば、すごく乙女な気分の日もあれば、いきなり何かを破壊したくなる日もある。もちろん、実際に壊しはしないですけれど、何かしら波は絶対にある。僕は、そういうものを受け入れる音楽を提供したいと思っているんです。」

 人間の精神の不可解さ。あるいは不条理。だが機械のように精確ではないからこそ、人間は面白いし、愛しい。鈴木優人は間違いなく、そうした人間の不可解さを面白がっている。あるいは愛してさえいるのかもしれない。彼の音楽から生まれてくるアヴァンギャルドさの秘密をみた、気がした。

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鈴木優人(すずき まさと) Masato Suzuki

1981年オランダ生まれ。東京藝術大学作曲科及び同大学院古楽科修了。ハーグ王立音楽院修士課程オルガン科を首席で、同音楽院即興演奏科を栄誉賞付きで日本人として初めて修了。アムステルダム音楽院チェンバロ科にも学ぶ。

18ホテルオークラ音楽賞受賞。

鍵盤奏者(チェンバロ、オルガン、ピアノ)として国内外の公演に多数出演。

指揮者としてはこれまでバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)、アンサンブル金沢九州交響楽団仙台フィルハーモニー管弦楽団、東京交響楽団東京フィルハーモニー交響楽団、広島交響楽団、横浜シンフォニエッタ読売日本交響楽団等と共演。

音楽監督を務めるアンサンブル・ジェネシスでは、オリジナル楽器でバロックから現代音楽まで意欲的なプログラムを展開する。

 

【鈴木優人さん 出演情報】

◆調布国際音楽祭2018◆

ジョアン・ラン ソプラノ・リサイタル | 調布国際音楽祭2018

日時:2018年6月29日(金) 19:00開演

会場:調布文化会館たづくり

 

ヴェルサイユの光と影 フランス音楽の今昔 Time Travel Versaille

日時:2018年6月30日(土) 14:00開演

会場:調布文化会館たづくり

 

調布国際音楽祭フェスティバル・オーケストラ

日時:2018年6月30日(土) 18:00開演

会場:調布文化会館たづくり

 

バッハ・コレギウム・ジャパン モーツァルト:劇場支配人 | 調布国際音楽祭2018

日時:2018年7月1日(日) 17:00開演

会場:調布グリーンホール

 

 

◇九大フィル第200回定期演奏会

日時:2018年6月18日(金) 19:00開演

会場:アクロス福岡シンフォニーホール

 

◇福岡OBフィル 第40回定期演奏会

日時:2018年7月15日(日)14:00開演

会場:アクロス福岡シンフォニーホール

 

◇神奈川フィルハーモニー管弦楽団みなとみらい小ホール特別シリーズ第1回

日時:2018年7月19日(木) 19:00開演 

会場:横浜みなとみらいホール

 

◇神奈川フィルハーモニー管弦楽団みなとみらい小ホール特別シリーズ第2回

日時:2018年7月20日(金) 19:00開演 

会場:横浜みなとみらいホール

神奈川フィルハーモニー管弦楽団みなとみらい小ホール特別シリーズ第2回

 

◇珠玉のリサイタル&室内楽 鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン バッハ:チェンバロ協奏曲全曲録音プロジェクトVol.1

日時:2018年7月28日(土)15:00開演 

会場:ヤマハホール

 

◇第39回霧島国際音楽祭2018 鈴木優人チェンバロ・リサイタル

日時:2018年7月29日(日)11:00開演 

会場:みやまコンセール

 

◇バッハ・コレギウム・ジャパン J.S.バッハ生誕333周年記念特別演奏会

日時:2018年8月2日(木)19:00開演 

会場:東京オペラシティコンサートホール

 

◇九大フィル特別記念演奏会

日時:2018年8月18日(土) 14:00開演 

会場:サントリーホール

 

◇仙台フィルハーモニー管弦楽団 第321回定期演奏会

日時:2018年9月14日(金) 19:00開演/9月15日(土) 15:00開演

会場:日立システムズホール仙台・コンサートホール

 

◇バッハ・コレギウム・ジャパン 第129回定期演奏会 モーツァルト:レクイエム

 日時:2018年9月24日(月・祝)15:00 開演  

会場:東京オペラシティコンサートホール

 

◇NHK交響楽団 第1899回定期公演Aプログラム

日時:2018年11月24日(土) 18:00開演/11月25日(日) 15:00開演 

会場:NHKホール

 

◇九州交響楽団 第373回定期演奏会

日時:2019年2月12日(火) 19:00開演 

会場:アクロス福岡シンフォニーホール

 

◇鈴木 優人 チェンバロリサイタル

日時:2019年2月6日(水) 開演時間未定 

会場:第一楽器コンサートホールムーシケ

 

第4回 たぐいまれな光で周囲を照らし続ける星(スター) 宮本益光(バリトン)

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 以前、東京二期会オペラ劇場『こうもり』で共演した青木エマさんが、宮本益光さんのことを「いつも面白いことを探していて、その面白いことにみんなを巻き込んでいく」と語っていた。まさに、宮本益光という「人」を的確に表した言葉だと思う。もちろん、宮本さんは「歌手」である。と同時に、彼の活動範囲はただ「歌うこと」にとどまらない。オペラの訳詞上演、コンサートの企画・構成・演出、作詞、詩や文章の執筆…。まさに「これをやろう」と決めたことを次々に実現させていく力を持っている。そんな宮本益光さんが今回、モーツァルトのオペラを上演する団体「MOZART SINGERS JAPAN」(以下、MSJ)を立ち上げた。宮本益光の新しい「面白いこと」が始まった。

 

精神的な歌劇場をつくる

 「きっかけは“焦り”です(笑) 僕は今年46歳になるんですが、去年ぐらいに“あと15年したら還暦じゃないか!”と考えたら急に怖くなってしまって…。10年前に二期会に『ドン・ジョヴァンニ』でデビューして、さてじゃあ10年後にはどれだけ歌っていられるんだろう、と考えた時に、自分に今できることをやらなければ、という思いに駆られました。僕らは『職業はオペラ歌手』と言っていますが、本場ヨーロッパのオペラ歌手たちに比べたら圧倒的に歌える場が少ない。“じゃあ、作っちゃえ!”と思ったんですね。歌劇場はないけれど、精神的な歌劇場を作ろう、と。」

 宮本さんのそんな「思い」を共有する仲間がいた。それがMSJに結集した3人の歌手と3人のピアニストたちだ。

 「たまたま、この7人は二期会オペラ研修所で先生をやっていて、僕が今言ったようなことを話したら、みんな同じ思いでいた。僕と鵜木絵里さん、針生美智子さん、望月哲也さんの4人の歌手は、全員モーツァルトをレパートリーの中心においている。そこで、モーツァルト作品を上演する団体としてMSJをつくることになりました。」

 MSJは、今後1年に1作ずつ、モーツァルトの「ダ・ポンテ三部作」と『魔笛』を、ピアノ伴奏でレコーディングすることが発表されている。実は、オペラ全曲を日本人キャストだけで演奏している録音はほとんどない。また、ピアノ伴奏、というところにも宮本さんのこだわりがうかがえる。

 「オペラでは、まずはコレペティトゥーアと呼ばれるピアニストがついて練習が行われます。このコレペティトゥーアはとても専門的な仕事で、誰にでもできるわけではありません。オペラの内容に精通していて、またその場面に応じて編曲する能力も求められる。お客様にはほとんど知られていないコレペティトゥーアという存在を広く知ってもらいたい、という意図もあるんです。」

 実際にピアノ伴奏の演奏会に足を運んだことのある方ならわかると思うが、ピアノ伴奏は音楽の線を浮き彫りにする。アンサンブルが聴かせどころのモーツァルトなら、その良さはむしろオーケストラ伴奏よりもよく伝わってくるはずだ。MSJは「ステージとピアノさえあれば、モーツァルトの極上のアンサンブルを、演技付きでも、演奏会形式でもお届けできる機動性、柔軟性」を武器にしているのだ。

 すでに、今年10月25日にオクタヴィア・レコードから『コジ・ファン・トゥッテ』をリリースすることが決定している。合わせてネット配信も予定。またブックレットには、宮本さんの訳詞もつくそうだ。

 

MOZART SINGERS JAPAN

ソプラノ 鵜木絵里、針生美智子

テノール 望月哲也

バリトン 宮本益光

ピアノ  山口佳代、石野真穂、髙田恵子

 

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モーツァルトに魅せられて

 個人的にはモーツァルトのオペラは、すべてのオペラの中でも非常に「特別」な印象を受ける(まあ、オペラ以外の作品でもそうなのだけれど)。例えば、声楽を学ぼうとする時、最初に教わるオペラ・アリアはモーツァルトだし、若手がデビューする作品がモーツァルトである確率はとても高い。宮本さんは、モーツァルトが、「アンサンブルをを中心において物語を展開した最初の作曲家」であるという点に注目し、それが、モーツァルトがオペラ歌手のレパートリーの基礎に置かれる理由であると語る。MSJが「アンサンブルの素晴らしさ」を追求する所以でもある。

 「モーツァルト・オペラの真髄は、完成された様式美にあると考えます。モーツァルトにおいてオペラは、レチタティーヴォという様式を完成した。その後登場するドニゼッティロッシーニベッリーニの作品は、モーツァルトがつくりあげた様式美の発展型ととらえることができます。それほど完成されていながら、いえ、完成されているからこそ、逆にどうとでも料理できるのがモーツァルトの面白さです。完成された様式美があるからこそ、無限に広がることができる。ペーター・コンヴィチュニーやカロリーネ・グルーバーのような演出もできるわけです。」

 教員になろうと考えて藝大に進み、その勉強の過程で常にモーツァルトが身近にあった宮本さん。オペラ・デビューは1997年、広島市民オペラで上演された『ドン・ジョヴァンニ』。まだ大学院生の時だがマゼットを演じ、次はドン・ジョヴァンニをやりたいなあ、と思った(なんと数年後にその思いは実現するのだが)。「自分の人生の大事なときに、いつもモーツァルトがあった」という宮本さんにとって、モーツァルト・オペラは永遠のライフワークだ。

 「自分を歌手として育んだのがモーツァルトだから、ずっとそばに置いておきたいと思います。」

 

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人を輝かせる才能

 冒頭に紹介した「いつも面白いことを探していて、その面白いことにみんなを巻き込んでいく」という宮本益光さんの特徴は、プロデューサー気質ともいえるだろう。実際、「ベートーヴェンと行くアリスのおんがく旅行」(日生劇場ファミリーフェスティバル)や黒い薔薇歌劇団など、彼が企画や構成を手がけたコンサートは枚挙にいとまがなく、またどれもが文句なく「楽しい」ものばかりだ。

 「(音楽家としての)出発点が教員になりたいという思いなので、プロデユーサー的なことは好きかもしれません。何かをつくってみんなで一緒に楽しみたい、ということが、何につけても最初にきます。」

 その「みんなで」という視線は、当然、一緒にオペラ歌手として歩いてきた仲間たちにも惜しみなく注がれている。

 「仲間の好不調をずっと見てきているから、その人たちの“今”を紹介したいという思いも強いんです。鵜木絵里のデスピーナは当代随一でヨーロッパでも通用すると思っている。だからそれを聴かせたい。同じように、針生美智子の夜の女王を、望月哲也のタミーノを…。そうしてできたのがMSJなんです。」

 

 先日私は、宮本さんが企画したホワイトデーコンサートに行ってきた。3人の後輩バリトンとともに歌うコンサートは、「とびきり甘い夜」というタイトル通り、聴いていてワクワク、ドキドキ、そして最後には涙も出てくる「とびきり素敵な」コンサートだった。人を輝かせ、そして自分も輝く舞台をつくりあげる才能。宮本益光という人の凄さはここにある。益光さん、年齢なんて関係なく、生きている限りその声で輝き、誰かを輝かせ続けて続けてください。そして、私たちに輝く音楽を届け続けてください。

 

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2017年11月の東京二期会オペラ劇場『こうもり』ファルケ役を演じる宮本さん

 

 

宮本益光(みやもと ますみつ)  Masumitsu Miyamoto

東京藝術大学卒業、同大学院博士課程修了。学術(音楽)博士号取得。2003年『欲望という名の電車』スタンリーで一躍注目を集め、翌年『ドン・ジョヴァンニ』(宮本亜門演出)タイトルロールで、衝撃的な二期会デビューを飾る。二期会コジ・ファン・トゥッテ』グリエルモ、『チャールダーシュの女王』フェリ、『こうもり』ファルケ新国立劇場鹿鳴館』清原栄之輔、『夜叉ヶ池』学円、日生劇場開場50 周年記念『メデア』イヤソン、『リア』オルバニー公、神奈川県民ホール開場40周年記念『金閣寺』溝口、あいちトリエンナーレ及び、iichikoグランシアタ神奈川県民ホール魔笛』パパゲーノ等話題の公演で活躍。古典作品から現代作品、邦人作品までそのレパートリーは幅広く、コンサートでも読売日響、東京都交響楽団、東京交響楽団、日本フィル等と共演を重ねている。また演奏のみならず、作詞、訳詞、執筆、企画、演出等でも多彩な才能を発揮、創造性あふれるステージで聴衆を魅了している。CD「おやすみ」「あしたのうた」「碧のイタリア歌曲」「うたうたう 信長貴富歌曲集」、著作に「宮本益光とオペラへ行こう」、詩集「もしも歌がなかったら」「樹形図」等がある。二期会会員

 

【宮本益光さん 出演情報】

 

◇仙台フィルハーモニー管弦楽団「オーケストラと遊んじゃおう!Vol.15」

日時:2018年4月8日(日)11時/14時30分開演

会場:日立システムズホール仙台 コンサートホール

  

◇神奈川県民ホール みんなで楽しむオペラ『ヘンゼルとグレーテル』

日時:2018年6月3日(日)11時/14時開演

会場:神奈川県民ホール 大ホール

 

◇水戸芸術館 「ちょっとお昼にクラシック」

日時:2018年6月17日(日)13時30分開演

会場:水戸芸術館 コンサートホールATM

 

◇神奈川フィルハーモニー管弦楽団 

 定期演奏会 県民ホールシリーズ第1回「Mozart Gala Concert」

日時:2018年7月14日(土)15時開演

会場:神奈川県民ホール 大ホール

 

 

 

新国立劇場2018/19シーズンラインアップ説明会

 新国立劇場の次のシーズンのラインアップを、オペラ・舞踊・演劇それぞれの芸術監督が説明する会見は、140人あまりの出席者を数えるたいへん盛大なものでした。オペラに大野和士、演劇に小川絵梨子という2人の新しい芸術監督が登場することも、盛況の理由だったかもしれません。

 オペラの2018/19シーズンラインアップ詳細はこちら

 ここでは、大野和士次期オペラ芸術監督のお話をまとめて報告したいと思います。

 

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大野和士次期オペラ芸術監督

 

 大野次期監督は5つの目標を掲げました。

1)レパートリーの拡充

 現在、1シーズンに上演される演目は10あり、そのうち新演出は3演目だが、それを4演目に増やす。新国立劇場はこれまで20世紀作品などを積極的に取り上げてきたが、そのほとんどがレンタルなので再演ができず、劇場の財産にならなかった。そこで、これからは、まず新国立劇場世界初演を行い、それを海外へ持っていくというスタイルを常態化させたい。また、海外で上演されているプロダクションを導入するにあたっては、上演権を買い取って、好きな時に再演できるようなシステムを作りたい。

 

2)日本人作曲家委嘱作品シリーズの開始

 1シーズンおきに、日本人作曲家に委嘱した作品を上演する。音楽劇の本質は、ある時間の中で様々な人間の感情が重層的に錯綜していくということ。これまでの日本のオペラ作品にはなかった、重唱によってオペラティックな展開を見せるような作品を作りたい。そのためには、作曲家・台本作家・演出家・芸術監督が綿密に協議を重ねていくことが必要。こうした新しい日本のオペラを世界に発信していきたい。

 

3)ダブルビルとバロック・オペラの新制作を1年おきに上演する

 1幕もののオペラを2作上演するというダブルビルは一粒で2度美味しい。18/19シーズンはツェムリンスキー『フィレンツェの悲劇』とプッチーニ『ジャンニ・スキッキ』を上演。バロック・オペラのピットには東フィルと東響を考えている。

 

4)旬の演出家・歌手の起用

 例えば、18/19シーズン『魔笛』で招聘するウィリアム・ケントリッジは独特のポエティックな舞台を創り出す新時代の演出家。そうした新しい時代を代表する演出家を積極的に招聘していく。また、海外から招聘する歌手に加え、重要な役で日本人歌手を起用する。誇るべきレベルにある日本人歌手を起用することは新国立劇場の重要な使命だと考える。

 

5)積極的な他劇場とのコラボレーション

 海外の劇場だけでなく、日本にある様々な劇場ともコラボレーションをしていく。手始めに、2020年東京オリンピックパラリンピックに向けた「オペラ夏の祭典」では東京文化会館びわ湖ホール・札幌文化芸術劇場との連携を行う。

 

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 大野次期監督のお話の中で、特に印象に残ったのは、日本人歌手を積極的に起用していく、ということでした。ずっと私は、新「国立」劇場なのに、重要な役はすべて外国人で、日本人歌手が(言葉は悪いですが)チョイ役しか与えられないことに不満を感じていました。素晴らしい実力のある歌手を海外から招聘することができるのも「国立」ならではだと思いますが、日本人歌手の成長を手助けするという意味でも、もう少し板の上に乗るチャンスを与えてもいいのではないか、と思っていました(もちろん、きちんとオーディションを行うなどしてレベルを確保することは大前提ですが)。なので、「重要な役で」日本人歌手を起用するのは大賛成です。

 この件に限らず、大野さんの言葉からは、「日本のオペラの新時代をつくる」という情熱と責任が大いに感じられたのが特徴的でした。世界の歌劇場でタクトを振る大野さんだからこそ、世界の中での日本のオペラ界の位置というものを肌感覚でとらえているのでしょう。オペラは「人間がいかに生きていくかという哲学」を表現する芸術だ、という大野さんは、「この国が今おかれている状況を考えても、この課題に日本は取り組むべきだし、また私の年齢はそれに取り組むことができる最後のチャンスだと思う」と語りました。今年58歳を迎える大野さんが新国立劇場の芸術監督というポストを引き受けられた一番の理由がここにある、と感じました。

 

 「新しい日本のオペラをつくり、世界に発信していく」という壮大な目標の第一歩として、まず次シーズンに上演されるのが、石川淳の原作による『紫苑物語』。平安時代を舞台に、歌の名家に生まれた宗頼という男性を主人公に、狐の化身である女性・千草との愛や、瓜二つの姿を持った仏師の平太との出会いを通して、芸術の永遠性や人間の我執を描く幻想的な物語です。大野さんは、西村朗に作曲を、佐々木幹郎に台本を依頼。そして演出は、現在日本人オペラ演出家として世界的に名高い笈田ヨシを迎えることが決まっています。

 確かに、壮大でありながら人間の本質に迫るドラマが生み出される予感がしますが、個人的には一点、どうしても気になることがありました。それはこの、いわば「大野新体制」を象徴する作品の原作、作曲、台本、演出、美術、衣裳、照明、監修、そして主役(いうまでもなく指揮も)すべてが男性であるこということです。むろん、芸術の才能に男女の別はありません。ありませんが、「世界に発信する新しい日本のオペラ」を創り上げるグループがすべて男性で占められているという状況は、なんとも歯がゆいというか、モヤモヤしてしまいます。それは図らずも、ジェンダーギャップ指数が世界114位という現在の日本社会の見事な反映になってしまってはいないでしょうか。大野次期監督には、ぜひ、「オペラにおける男性と女性」というテーマにも目を向けてもらえたら、と思います。

 それはともかくとして、これまでにない新しい光を感じたラインアップ説明会だったことは間違いありません。次のシーズンを楽しみに待ちたいと思います。

 

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左から 小川絵梨子次期演劇芸術監督、大野和士次期オペラ芸術監督、大原永子舞踊芸術監督

 

2018年1月11日、新国立劇場にて。

第3回 知性と直感を兼ね備えた若きマエストロ 山田和樹(指揮)

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21世紀の「ヤマカズ」

 かつては指揮者「ヤマカズ」といえば「故・山田一雄」のことだったが、2017年現在の日本では、ほぼ100パーセント「山田和樹」を指す。それは、偶然にも名前が似ていただけでなく、山田和樹さんがその愛称で知られる偉大なる先輩指揮者に勝るとも劣らない優れた資質を持ち、八面六臂の活躍を繰り広げているからに他ならない。例えば2015年〜17年にかけて日本フィルと行った「山田和樹マーラー・ツィクルス」や、2016年「柴田南雄生誕100 年・没後20年 記念演奏会」などは、芸術選奨文部科学大臣新人賞、文化庁芸術祭大賞を受賞し大きな話題となった。特に後者は、「重要だし、誰かがやらなければいけないけれど、なかなか実現できそうにない」企画の最たるものだったと思われる。そう、ここ数年、「今、これをやるのか!」と周囲を唸らせるような企画に「ヤマカズ」は積極的にコミットしているのだ。

 「僕がやらなきゃやる人がいない、というお節介的使命感があるんです(笑) 真面目な話、35歳を過ぎたときに自分の“限界”を意識するようになりました。仮に80歳まで生きたとしても指揮したい曲を全部は指揮できない。ならば、最高のオリジナリティは『自分にしかできないこと』と、『他の人がやらないこと』をやることだと。それが最終的には“やりたいこと”になるんですけれどね。」  

 そんな山田さんがこのたび立ち上げたのが、音楽監督兼理事長を務める東京混声合唱団(以下、東混)、正指揮者を務める日本フィルハーモニー交響楽団(以下、日本フィル)とスタートさせた「山田和樹アンセム・プロジェクト」である。またニッチなところをと唸った人も多いのではないか。

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 「東混は1956年に、“合唱作品の開拓と普及”ということを掲げて東京藝術大学声楽科の卒業生によって創設されたプロの合唱団です。その開拓者精神、フロンティア・スピリットにもう一度立ち返ろう、ということで考えたのが『アンセム・プロジェクト』なんです。具体的には、各国の国歌と、“第二の国歌”と呼ばれるような愛唱歌を中心に演奏・録音していくもの。誰もやったことがないものと誰もが知っているもの、その両方をプロのクオリティで表現してくことが目標です。」

 第一弾として、11/22にキングレコードから「山田和樹のアンセム・プロジェクト Road to 2020」と題する2枚組CDをリリース。さらに同名のコンサートが、東京混声合唱団とともに2018年2月20日に東京オペラシティ・コンサートホールで開催される。

  「次のCDでは、合唱作品で人気・実力ともにナンバーワンの作曲家・信長貴富さんにメドレー作品を作っていただくことが決まっています。最終的には5〜6枚のCDをリリースしたいと思っています。このプロジェクトが完遂した暁には、東混は世界で一番色々な言語に精通した合唱団になります。合唱の世界で“東京に東混あり”と言われるようになりたい。そのためにも、2020年の東京オリンピックパラリンピックまで継続的に盛り上げていくつもりです。」

www.kingrecords.co.jp

 

オペラ指揮者としての素質

 

 現在、日本では東混の他、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、横浜シンフォニエッタ音楽監督というポストに就き、さらに2018年4月からは読売日本交響楽団の首席客演指揮者に就任することが決まっている山田さん。やはり彼の軸足はオーケストラの世界にあるのだろうか。私には、オペラ指揮者としてもっと本格的に活動してくれないかという切なる希望があったので、そのことを素直にぶつけてみた。

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 「オペラはできる限り指揮したいと思っています。1年に1作を目指して取り組んでいきたいです。」

 これまでに彼が指揮したオペラ(藤原歌劇団カルメン』、日生劇場『ルサルカ』、そして厳密にはオペラではないが2012年サントリーホールでのクセナキス『オレステイア三部作』など)を観たところ、情熱的なところとクールなところとのバランス感覚が抜群だと感じているのだが。

 「自分では特にバランスということは考えてはいませんが…そう、最近は演奏家にどう伝えるのか、ということを考えていますね。自分が自然な呼吸をしているときに、オーケストラは自然な音を出してくれる。しかし、オペラにとってはそれがマイナスな時もある。そういう時はあえてテンションを与えなければいけない。ただし、作戦を練ってもそう上手くいくものでもないですし。」 

 驚いたことに、彼はリハーサルでもあまりプランニングはしないそうだ。特に本番は、その場その場で変わるもの。「こうしよう」と決めてしまうと、その変わった瞬間の呼吸をつかまえることができなくなってしまうのだという。

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 「“今ならいける!”という瞬間をつかめるかどうか。究極、指揮者というのはその嗅覚なんだと思います。もちろん、それをキャッチするためには常にアンテナを立てていなければならないですけれど。僕はカラヤンが大好きなんですが、彼はそのことを『鳥の群れが空を飛んでいる。それを操るのが指揮者の仕事』と言っています。カラヤンはそれが抜群にうまかった。そういう指揮者に憧れるんです。」

 

 指揮者には色々なタイプがいて、情熱でグイグイ引っ張っていくような人もいれば、緻密に計算していく人もいる。作品にもよるが、私が「いいな」と感じるオペラの多くは、その中間にいるような「バランスの優れた」指揮者の演奏であることが多い(そして私もカラヤンが大好きである)。山田和樹がその「キャッチする力」を発揮したとき、音楽はこの上なく光り、そして動く。その瞬間が生まれるためには、優れた演出家と組むことも必須だろう。

 「一度幕が上がってしまえば、その空間を操るのは僕。これは麻薬的な魅力があると同時に、恐ろしいことでもあります。」

  音楽が好きで、「声楽家かピアニストになりたかった」という山田さん。でも、やはり彼の話を聞いていると、いかにも「指揮者メンタリティ」だなあと思う。「ヤマカズだけじゃダメ。もっと若い人がどんどん出てきてくれないと」とも語っていたが、そのメンタリティとバイタリティがある限り、まだまだ「ヤマカズ」の天下は続きそうだ。

 

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山田和樹(やまだ かずき) Kazuki Yamada

 2009年第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ほどなくBBC交響楽団を指揮してヨーロッパ・デビュー。同年、ミシェル・プラッソンの代役でパリ管弦楽団を指揮して以来、破竹の勢いで活躍の場を広げている。
 2016/2017シーズンから、モンテカルロフィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督に就任。スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、東京混声合唱団音楽監督兼理事長、横浜シンフォニエッタ音楽監督などを務めている。2016年には、実行委員会代表を務めた「柴田南雄生誕100 年・没後20年 記念演奏会」が平成28年文化庁芸術祭大賞、2017年には『山田和樹マーラー・ツィクルス』などの成果に対して、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞を受賞。
これまでに、ドレスデン国立歌劇場管、パリ管、フィルハーモニア管、ベルリン放送響、バーミンガム市響、サンクトペテルブルグ・フィル、チェコ・フィル、ストラスブール・フィル、エーテボリ響、ユタ交響楽団など各地の主要オーケストラでの客演を重ねている。
 東京藝術大学指揮科で小林研一郎松尾葉子の両氏に師事。メディアへの出演も多く、音楽を広く深く愉しもうとする姿勢は多くの共感を集めている。ベルリン在住。

公式twitter @yamakazu_takt

 

山田和樹さん 出演情報】

◇12月27日(水)18:30開演 東京オペラシティコンサートホール
東日本大震災 復興支援プロジェクト 仙台フィル×読響 スペシャル合同オーケストラによる
山田和樹指揮 小・中・高校生のための「第九」チャリティ・コンサート
問い合わせ:公益財団法人ソニー音楽財団  03-3515-5261
 
 
◇12月28日(木)19:30開演 東京コンサーツラボ
山田和樹のおしゃべりコンサート Vol. 1 東混マスターズとともに

http://tocon-lab.com/event/171228

◇12月29日(金)19:00開演 東京コンサーツラボ
山田和樹のおしゃべりコンサート Vol. 2 竹山愛(フルート)とともに

http://tocon-lab.com/event/171229

問い合わせ:東京コンサーツ 03-3200-9755

 
 
◇1月12日(金)19:00 ソニックシティ
(ピアノ:小曽根 真)
問い合わせ:ソニックシティホール 048−647−7722
 
 
◇1月13日(土)18:00 横浜みなとみらいホール
山田和樹指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 第334回横浜定期演奏会<秋季>
(ピアノ:小曽根 真)
問い合わせ:日本フィル・サービスセンター  03-5378-5911
 
 
◇1月14日(日)14:30 相模女子大学グリーンホール
(ピアノ:小曽根 真)

 


◇1月27日(土)13:30 静岡市民文化会館 大ホール
山田和樹指揮 ドヴォルザーク作曲 オペラ「ルサルカ」
問い合わせ:静岡市民文化会館 054-251-3751 

  

◇2月10日(土)15:00 山形テルサ テルサホール
山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ(ヴァイオリン:樫本大進 
問い合わせ:山形テルサ 023-646-6677
 
 
◇2月13日(火)19:00 ザ・シンフォニーホール
山田和樹指揮 日本センチュリー交響楽団(ヴァイオリン:樫本大進) 
問い合わせ:センチュリー・チケットサービス 06-6868-0591
 
 
◇2月17日(土)19:00 フィリアホール
山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ第13回演奏会
(チェロ:アレクサンドル・クニャーゼフ) 
問い合わせ:フィリアホールチケットセンター  045-982-9999
 
 
山田和樹指揮 東京混声合唱団(ピアノ:萩原麻未
問い合わせ:河北新報社企画事業部 022-211-1332
 
 
◇2月20日(火)13:30 東京オペラシティコンサートホール
山田和樹指揮 東京混声合唱団(ピアノ:萩原麻未
問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ 03-5774-3040
 

東京芸術劇場シアターオペラvol.11『トスカ』 演出の映画監督・河瀨直美さんに聞く

 全国5都市(新潟・東京・金沢・魚津・沖縄)で上演される全国共同制作プロジェクト、プッチーニの歌劇『トスカ』。これが初めてのオペラ演出になる映画監督の河瀨直美さんに、翌日は東京芸術劇場での初日というタイミングでお話を伺うことができた。

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10月15日に新潟で幕が上がったわけですが、現在のお気持ちをお聞かせください。

 初めて自分が手がけたオペラがかたちになったのを観て、今は新鮮な感動でいっぱいです。

 実は特に注意を払ったのが字幕なんです。映画を海外で上演する時に感じているのは、字幕の大切さです。言葉が通じなければ何もわかりませんから。かといって、文字が多すぎても舞台の上の表現に集中できない。『トスカ』は200年前のイタリア語ですから比喩がとても多くて、今の私たちにとってはそのまま訳したのではわかりにくい。なので、字幕の方とディスカッションしながら、できるだけシンプルでわかりやすい表現を探しました。

 

「舞台は古代日本を想定させる“牢魔”」という演出プランはどこから着想されたのでしょうか。

 時代と場所を特定しないことで、観にいらしたお客様が舞台上の人たちと同じ地平で出会うことができる。そのことで、本来プッチーニが表現したかったものに近づくことができたのではないかと思っています。

 私は2人の男性の登場人物のうち、カヴァラドッシよりもスカルピアに感情移入できるんです。スカルピアは悪役ですが、ただの悪い人間ではない。男性ならたいていの人が心のそこに持っている欲望や上昇志向をキャラクターにしたもの。ですから、自分とは全然関係のない人、ではなく、誰しもが持っている憎悪や激しい感情を表現しているのではないでしょうか。プッチーニは、社会の中に存在している人間の本質というものを、この『トスカ』というオペラで描きたかったのだと思いました。

 

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オペラではスカルピアだけでなく、最後にはカヴァラドッシもトスカも死んでしまうという悲劇的な結末を迎えます。

 3人はそれぞれの生を私たちに見せてくれます。スカルピアは先ほど言ったように、人間の本質的な感情を。トスカは清らかな愛と信仰に生きるという魂のあり方を。そしてカヴァラドッシは命をかけて友人をかくまい、自らを犠牲にするという潔さです。そうした3人の生を私たちが見たとき、そこに「力」を感じるのです。それは悲劇のドラマの中にさしている「希望」でもあります。

 これは日本人ならではの考え方かもしれませんが、人間の命は死んで終わりではなく、輪廻転生がある。今この時代の生を全うした後でも、思いは次の世代に繋がっていく。ひとりの人生としては死は終わりですが、そこから始まる何かがあって、それを観客が受け取って今の生にいかしていくことができるという「希望」を、この物語から受け取っていただければと思います。

 

今回の登場人物について、もう少し詳しく教えていただけますか。

 トスカは「トス香」、カヴァラドッシは「カバラ導師・万里生」で、彼らは古代のシャーマンです。これに対してスカルピアは「須賀ルピオ」という新しい勢力を代表する人物。どちらが悪いということではなく、価値観の違いが表現されていきます。

 トス香の信仰は、ここでは自然信仰です。古来日本では自然には神がいて、災害は神の怒りだと考えられてきました。けれども現代では、人間が自然をコントロールしながら快適さだけを求めてきたために、地球そのものが疲弊し危機に瀕しています。そうした私自身の表現者としての問題意識も盛り込まれています。

 

監督ご自身が手がけられた映像も大きな注目の的ですが。

 映像には各幕ごとにテーマがあります。第1幕は大地、第2幕は深海、そして第3幕は再び大地に戻ってきますが、特に夜明けを表現しました。時間の移り変わりを追いながら、太陽や雲の流れをつくっていきました。

 映像が映し出されるスクリーンは、それ自体が人物が出入りする玄関になっています。そこに表れる光と影に注目していただければと思います。

 

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10月26日東京公演ゲネプロより

オペラ演出についてはどんな感想を持たれましたでしょうか。

 映画もそうですが、私は大勢の人たちがひとつになってものを作り上げていくことが大好きなんです。映画の時は作品に入り込んで、俳優たちともディスカッションを重ねていきます。今回もその手法を取り入れましたが、もし機会があれば、次のオペラ演出ではもっともっと時間をかけてひとつの作品を練り上げていきたいと思います。

 今回ご一緒したソリストの方たちは、皆さん、日本のこれからを担っていくような才能の持ち主です。日本のオペラ界を支えていく若手がどうやったらもっと世界にアピールしていけるか、ということを考えていきたいです。実は、映画の世界も同じ課題を抱えています。世界のトップの人たちと並んで表現していけるようなものを、映画でもオペラでも目指していけたらと思っています。

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河瀨直美(かわせ なおみ) Naomi Kawase

映画作家

生まれ育った奈良で映画を創り続ける

1989年 大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)映画科卒業

1995年 自主映画『につつまれて』、『かたつもり』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭をはじめ、国内外で注目を集める

1997年 劇場映画デビュー作『萌の朱雀』でカンヌ映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少受賞

2007年 『殯の森』で、カンヌ映画祭グランプリ(審査員特別大賞)を受賞

2009年 カンヌ映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金きん の馬車賞」を受賞

2013年 カンヌ映画祭コンペティション部門の審査委員に就任

2015年 フランス芸術文化勲章シュヴァリエ」を叙勲

『あん』が国内外で大ヒットを記録

2016年 カンヌ映画祭シネフォンダシオン・短編部門の審査委員長に就任

2017年 『光』がカンヌ国際映画祭 エキュメニカル賞を受賞

オペラ『トスカ』を初演出

2018年 最新作『Vision』(ジュリエット・ビノシュ主演)公開

11月23日よりパリ・ポンピドゥセンターにて大々的な「河瀨直美展」が6週間にわたり開催される

映画監督の他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を続け、

故郷の奈良において「なら国際映画祭」をオーガナイズしながら次世代の育成にも力を入れている。

公式サイト www.kawasenaomi.com

公式ツイッターアカウント @KawaseNAOMI

 

 

東京芸術劇場シアターオペラvol.11 全国共同制作プロジェクト

プッチーニ/歌劇『トスカ』《新演出》 全3幕 日本語字幕付 イタリア語上演

2017年10月27日(金)18:30開演/29日(日)14:00開演

東京芸術劇場 コンサートホール

 

演出:河瀨直美

指揮:広上淳一

 

チケット料金(全席指定・税込)※当日券あり

S席10,000円 A席8,000円 B席6,000円 C席4,000円

D席3,000円(完売) E席1,500円(完売) SS席12,000円(完売)

 

チケット取り扱い

東京芸術劇場ボックスオフィス

0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00)

 

主催:東京芸術劇場 (公益財団法人東京都歴史文化財団

 

【全国5都市公演】

新潟公演 10月15日(日)※終了

金沢公演 118日(水)19:00開演 金沢歌劇座
魚津公演 1112日(日)14:00開演 新川文化ホール
沖縄公演 127日(木)19:00開演 沖縄コンベンションセンター